「ナーク」は、ウイリアムズ・エレクトロニクス開発、WMSインダストリーズ販売による、1988年にアーケード向けにリリースされた、ベルトスクロールシューティングゲームです。
1988年リリースとは思えない美しいグラフィック、一方で極めて暴力的な表現が有名な一作です。後に、NES、コモドーレ64、アタリST、ZXスペクトラム、アミスタッドCPCに移植されました。
オススメ度:
個人的好き度:
1988年に登場した作品です。そのグラフィックは実写取り込みで、同年に発売されたアーケード向け作品の中で群を抜いて優れており、90年代中盤の作品だと紹介されれば信じてしまいそうになるほど。コイン投入直後の、主人公の指がコンピュータを操作する場面を見るだけで、88年リリースとはにわかに信じられないのではないでしょうか。
さて、本作最大の特徴は、その暴力的表現です。「フルフェイスヘルメットを被った主人公を操り、無数の犯罪者にマシンガンをぶっ放して射殺する」「ロケットランチャーを打ち込んで肉片にする」「ターボ装備したポルシェで犯罪者をひき殺す」「オーバースピードで運転」「ターボブースト運転で障害物にぶっこむ(もちろん車は大破)」…まるでプレイヤーの深層心理に隠された犯罪願望を引き出すかのよう。
Say NO to drugs
また他方で、本作は、「ビデオゲームがドラッグ撲滅に対して強いメッセージを打ち出した例」として著名です。
アーケード版
デモ画面で、「Winners don't use drugs」(勝者はドラッグに頼らない)のスローガン。このスローガンは、1989年-2000年に展開されたもので、本作はその最初期のもの。
また筐体に「Say NO to drugs!」(ドラッグにノーと言おう!)とのステッカーが貼られています。
NES版
説明書に「ナークをプレイすることはドラッグ反対の立場を表明する一つの方法です。ドラッグは格好良いものではありません」という、アクレイム社のグレゴリー・フィスチバッハ社長のコメントが掲載されています。同氏はアクレイム社の創業者でもあり、社長自らがコメントを寄せるところに、強い意志が感じられます。
時代背景
本作の時代背景についても少し触れておきましょう。1960年代後半の
ヒッピー・ムーブメント(先人から押し付けられる保守的な思想に疑問を持ち、これを打破しようとする若者の動き)を受け、アメリカ合衆国内でコカイン摂取がブームとなり始めます。その流れで、1970年代後半から、コロンビアからのコカイン密輸が増加。当初は成人が摂取していたのが子ども達にも影響し、「気晴らしのために」(=特定の思想に基づくものではなく)ドラッグを摂取することが横行します。この流れを止めようとしたのが、当時のロナルド・レーガン大統領(1981年-1989年在任)夫人、ナンシー・レーガン氏による、「ジャスト・セイ・ノー」キャンペーン(
「ただノーと言おう」作戦)でした。これは、ナンシー夫人が小学校を訪問した際に、女子児童から「ドラッグを勧められたら何と言えばいいですか」との質問に対し、「ただノーと言いましょう」と答えたことが発端だと言われています。このキャンペーンは奏功し、子どもたちの意識を向上させることに成功、未成年の摂取率を減少させました。
本作のNES版説明書には、「ジャスト・セイ・ノー・インターナショナルに参加しよう」という記載があります。「ジャスト・セイ・ノー・インターナショナル」は、上記の流れを受けて設立された機関だと思われます。
こうしてみると、本作の暴力性は、ドラッグ犯罪組織に対する、強い怒りや憎しみから来ているように思われます。「主人公も悪なんだけど、敵がそれを上回る極悪であるために、主人公が支持される」という構図は、どこか「
パニッシャー」に通じるものがあります。
ゲームとしてはかなり難易度が高く、主人公があっという間にやられてしまい、コンティニューは必至。とにかく敵の数が多すぎる!(この点は、多数のスプライトを表示できるという点で、優れた技術力の証でもあります)一方で、主人公の攻撃方法もかなり強烈です。時代背景を考慮しながら本作に触れてみると、単なる暴力ゲーという評価にとどまらない、また違った側面が見えてくるのではないかと思います。